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ストーリー


光がものに色を与え、形を見せ、時を創る。ひとは輝きに魅かれ、憧れ、夢を見る。
 
いつからか季節を感じなくなっていた。手帳を繰っている時、昨日が十五夜だったことに気がついた。時間に追われ、季節に追い越される自分がいた。疲れていた。
 
休日。
思い立って映画を見に行った。ひとりで映画を見に行くなんて何年ぶりのことか。SF大作と決めて出掛けたのに、直前に話題の恋愛映画に変えた。最愛の人の死をテーマとしたお涙頂戴もの。案の定、女性ばかりで気恥ずかしさを感じながら席に着いた。落ち着いて場内を見回すと、男性も相当数いることを知った。左斜め前々席に私と同世代と思しき男性が見える。やはり私と同じひとりのようだった。
陳腐で退屈な映画だったが、場内のいたるところから、すすり泣く声がし、両隣の女性も泣いていた。斜め前の男性も泣いていたことに気づいた。ほぼ同時に席を立ち、退場するときに彼を正面から見たら、私にそっくりな風体をしていた。似ていたこともあって、あきれて少し怒りを覚えた。
 

帰り道。
彼のことが頭から離れなかった。怒りはすぐに消えていた。どんな職業なのか、趣味は何か、家族構成は、生い立ちや過去の事。勝手に想像していたが、いつの間にか自分のことを振り返っていた。
ある事を思い出して愕然とした。フランダースの犬。二十代も終わりの頃、姪っ子と見たアニメ映画。私はボロボロと涙を流したのだ。あきれるほどの感受性が、私にもあったのだ。仕事を重ね、少しばかり世間が広がり、立ち回る術を覚え、喜びや悲しみを押し殺してきた自分に気がついた。今日一日以上の疲れを感じた。
辺りは夕闇に包まれていた。自宅間近の信号待ちで、閉店したコンビニの隣に不思議な光を見た。一軒の店の灯りだが、あみだ目のガラス棚にかざられた数個のステンドグラスのランプ。所々につけられたスポットライト。その奥に壁掛けモニターが、どこかの夜景を映し出している。新しくて温かくて、力強くて優しい光。
信号機の下に佇んで、しばらくの間見ていた。得体の知れない、でも輝くものが胸を満たして、ついには溢れ出してきた。私はほんの少し涙を流し、ほんの少し微笑んだ。